ユダの福音書

ユダ裏切ってない?1700年前の「福音書」写本解読
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20060407i301.htm?from=main3
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/topics/n20060407_1.shtml

 こういう話は大好きでして。


 ご存知の通り、聖書とはたくさんあるユダヤキリスト教関係の文献の集合体なわけでして。旧約聖書には「創世記」「出エジプト記」など、新約聖書には「マタイによる福音書」「マルコによる福音書」「ヨハネの黙示録」などが収められています。

 一方で、教会の教えにそぐわない・異端であるとして、聖書に収められなかった文献もたくさんあります。これらは外典とか偽典とか呼ばれています。有名なところでは、10年ほど前にあるアニメで注目を浴びた「死海文書」のひとつ「トマスによる福音書」などです。

 で、30年ほど前にエジプトの砂漠で発見されたパピルスを解読してみたところ、このたびこれが1700年前の偽典「ユダの福音書(ユダによる福音書)」の写本であることがわかった、というニュースなわけです。「ユダの福音書」は、その存在だけはずっと伝えられてきたのですが、実物の写本が出てきたのは今回が初めてなのだそう。

 新約聖書では、イエスの弟子であったユダは金目当てにイエスユダヤ人に引き渡し、結果イエスが十字架にかけられることになったとされていて、ユダはイエス・キリストを裏切った最悪の人物として記録されています。

 ところが「ユダの福音書」では、ユダがイエスを引き渡したのは裏切り行為ではなく、イエス自身が事前に密かにユダに指示していたことで、ユダはイエスの言いつけに従ったのだと記述されているとのこと。新約聖書に収められている他の文献とは全く逆の内容なわけで、それで(主に欧米で)大きなニュースとなっているわけです。



 以下私見

 まだニュース記事でしか内容を把握してませんが、どうも秘儀伝授とか秘事法門的な要素を強く感じる文献です。
 どういうことかというと、
 
 「教祖様(もしくは神)が、こっそりと『他の人には内緒だけど、お前にだけは本当のことを教えてあげよう☆』と言って、自分だけに本当の教えを説いてくれた! みんなが信じていることは嘘で、自分だけが真実の教えを受け継いでいるんだ!」


 と言い張ることです。
 これは時代・地域を問わず、宗教の歴史にはよくある展開でして、当時の時代において異端とされた人たちがよく主張したパターンでもあります。もちろん大抵の場合証人はいないので、確かめようがない話です。

 おそらくユダに心を寄せた人たちの間に「ユダは裏切り者なんかじゃない。実はすごく偉かったんだ」という信仰が受け継がれ、それが文章になったのが「ユダの福音書」なのだと想像します。

 さて、今回のニュースについて「これが真実だとしたらユダは裏切っていないわけで、キリスト教世界に大きな論争を巻き起こすことになる!」という言説が一部にあります。確かに歴史研究・宗教研究の上ではとてつもなく大きな功績ではありますが、キリスト教社会そのものに影響を及ぼすことは基本的にないでしょう。

 実のところ、宗教において聖典とか経典の内容が歴史的に真実であるか否かなんてあんまり、いやほとんど関係なかったりします。
 どうやったって多くのキリスト教信徒にとってユダは裏切り者であることは揺るがないし、逆に、この写本を手にしていた1700年前の人たちにとっては、ユダはイエスが最も信頼した最高の弟子であったのです。「そのように信じていた」人が現にいた、ということだけが、ただひとつ変わらない真実なのです。




 以上っ。
 たまにはこんな話もいいでしょう。